助動詞には、単純に時制や様態を付加するものと、 格を変えるものがある。恐らくその起源までさかのぼると、 深い事情があると思われるが、ここでは追求しない。 ただ、格を変えない助動詞は、接続先の動詞のほうに主導権があるのに対して、 格を変える助動詞は、動詞から主導権を奪っている。 このような現象は複合動詞に現れるもので、 該当する助動詞は別のカテゴリとして扱うほうがいいのかも知れない。

格を変える助動詞

	助動詞	格を変えないもの	格を変えるもの
原文		猫が魚を食べる。
単純受身	～られる		猫に魚が食べられる。
迷惑受身	～られる		(飼い主が)猫に魚を食べられる。
使役	～させる		(飼い主が)猫に魚を食べさせる。
自発・可能	～られる	猫が魚を食べられる。	(猫は)魚が食べられる。
ら抜き可能	～れる(*1)	猫が魚を食べれる。	(猫は)魚が食べれる。
希望	～たい	猫が魚を食べたい。	(猫は)魚が食べたい。
尊敬	～られる	(殿様の御愛猫=)猫が魚を食べられる。
希望	～たがる	猫が魚を食べたがる。
打消	～ない	猫が魚を食べない。
推定	～らしい	猫が魚を食べるらしい。
様態	～そうだ	猫が魚を食べそうだ。
伝聞	～そうだ	猫が魚を食べるそうだ。
例示	～ようだ	猫が魚を食べるようだ。
完了	～た	猫が魚を食べた。
丁寧	～ます	猫が魚を食べます。
打消推量	～まい	猫が魚を食べまい。

• (*1) ラ抜き可能の場合、接尾辞

上記の文において、すべての文が、食べる主体が猫であり、食べる対象は魚である。 通常の文では、食べる主体の助詞に「が」を使い、食べる対象の助詞に「を」を使う。 ここで、興味深いのは、助動詞「られる」が４つに場合分けされることである。

• 尊敬 : 格を変えない。また「お～になる」という表現もある。
• 自発・可能 : 食べる対象のとらえ方により「を」「が」という助詞を使い分ける。
• 単純受身 : 格を変える。食べる対象に「が」を用いる。食べる主体に「に」を用いる。
• 迷惑受身 : 格を変える。食べる主体と食べる対象以外に、それによって迷惑を受けた主体が登場する。

また、使役と迷惑受身が全く同じ助詞を取ることは注目すべき点である。 同様に、自発・可能と希望の助動詞が「が」と「を」の両方を使えることも注目すべき点である。

今回は助動詞の星取り表を作成してみよう。 星取りのルールは次のように決めた。ただし、「そうだ(様態)」、 「そうだ(伝聞)」、「ようだ」のような形容動詞型の助動詞は除いた。

• ○-３点：対戦相手の助動詞に対して、いつも前に来る。
• △-２点：対戦相手の助動詞に対して、前に来ることも後ろに来ることもある。
• ×-１点：対戦相手の助動詞に対して、前に来るが、後続助動詞の活用形に制限がある。
• ●-０点：対戦相手の助動詞に対して、いつも後ろに来る。

	せる させる	れる られる	たがる	ない	たい	らしい	だ	た	ぬ	ます	です	まい	う よう	勝ち点	試合数	平均
せる/させる	－	△	△	○	○	○	×	○	○	○	×	○	○	30	12	2.50
れる/られる	△	－	△	○	○	○	×	○	○	○	×	○	○	30	12	2.50
たがる	△	△	－	○	○	○	×	○	○	○	×	○	－	27	11	2.45
ない	●	●	●	－	－	○	×	○	－	－	×	－	○	11	8	1.38
たい	●	●	●	－	－	○	×	○	－	－	×	－	○	11	8	1.38
らしい	●	●	●	●	●	－	×	○	●	－	×	－	－	5	9	0.55
だ	●	●	●	●	●	●	－	○	●	－	－	－	○	6	9	0.67
た	●	●	●	●	●	○	×	－	－	●	●	－	○	7	10	0.70
ぬ	●	●	●	－	－	○	×	－	－	●	×	－	－	5	7	0.61
ます	●	●	●	－	－	－	－	○	×	－	－	○	○	10	7	1.43
です	●	●	●	●	●	●	－	○	●	－	－	－	○	6	9	0.67
まい	●	●	●	－	－	－	－	－	－	●	－	－	－	0	4	0.00
う/よう	●	●	－	●	●	－	●	●	－	●	●	－	－	0	10	0.00

やはり、動詞型の助動詞のほうが高得点を得るようである。